8月29日(木)

 昨日の夜 Pub Street をちょっと覗いてみたんだけど、タイ・バンコクのカオサン通りとよく似ている。賑やかというか、騒々しいというか。このゲストハウスがある場所は、やはりタイのランプトリ通りと似ていて、静かで、物価が安い。いまいるゲストハウスも7泊で10000円ぐらいの過ごしやすい場所です。

 そういう場所で、どなたもタバコを吸っていないと、なんか禁煙のように見えるが、街の中心でも寺院の近くでも、食堂では「Can I smoke here?」と訊けば、まず No とは言わない。吸って構わないんだ。たったこれだけのことだが、勝手を知らない場所なので、最初はちょっとおずおずします。Yes と言われればほっとする。気が楽なんだよね。

 ここだって欧米化している、あるいはしつつあるという現実は日本と変わらない。でも、宗教意識がちゃんと根付いているようにみえるので、おそらくそのせいで、人間不信になるようなことは起きない。人間は、人間自身の手に負えないことはやっていない。いま社会のそこここにある文化は、人間の可能性の中で発展したものであって、不可能なことなんか人間はやっていない。

 寝坊のぼくは朝がかったるいが、このたびはアンコール遺跡巡り3日間、朝から夕方までフィールド・アスレチックみたいなことを続けていたから、いい運動になった代わり、脚だの腹筋だのが筋肉痛だし、昨日トゥクトゥクの座席でかなり強い風に叩きつけられたせいか、ややガラガラ声。でも、ゲストハウスにこもりっきりもつまんないから、ピアノ曲の楽譜を1ページ書いたら、休みを入れて近所をぶらぶらしてみることにした。

 遺跡群の寺院の中には順路を示す「Way to visit」という標識が立っているが、右に向かっても左に向かってもいい。矢印が両方向に書いてある。そこで、いちいち立ち止まって、どっちへ行こうか考えることになる。日本の場合はおおむね一方通行でしょう。だからこちらシェムリアップの寺院では道に迷いやすい。

 街では、棟方志功の仏画のような透かし彫り作品は中型で15ドル。ゲストハウスの受付嬢が言う8ドルは安すぎ。ぼくがアンコール・トムで買ったほぼ同じサイズの作品は25ドルで、法外に高いというものではない。綿のTシャツは街では2ドル程度、遺跡群の中では5ドル程度。まあそんなもんだろう。200円か500円か、ですよ。高さ1メートルほどの木彫の観音様は100ドル程度とのこと。興味はあるが、日本の自宅に置いておく気にはなれない。

 バンコクでも脚マッサージたった2ドル、という売り声はあったが、シェムリアップの脚マッサージ3ドルの売り声をさっき聞いた。どうもね、そもそもマッサージ自体に興味がなくて、それにこういうサーヴィスはぼられそうだから、いまのところパス。流しのトゥクトゥクの運ちゃんもお断りする。この断る refuse ということがかなり必要で、いちいち相手にしてらんなくて、最初はうざかったけど、ちょっと断り方を覚えたかな。

 国道2号線に沿って、だらだら歩いてみた。どこまでで終わるかがわからないし、地図も持ってないから、1本道を歩くだけだが、普通のスーパーもあって、爪切りを買った。爪が伸びていた。

 まあ総じて、シェムリアップはバンコクほど都市化していない。電車もバスも走ってない。こういう場所で「精神」とかって、どういうもんなんですかと考えることはあるが、なんというか、よくわからないから、この話はしばらく抛っておく。

 ほっといて、昼めし食いに出ました。5.5ドル。カレーのたぐいだが、かなり辛かった。それでいろんな人と片言クメール語と英語で話して、通じたり、通じなかったりだが、「精神」なんて言うから話がややこしくなるんで、人間だったら「心」があるんであって、「心」とか「気持」でいいじゃないか。その琴線に、音楽なら音楽が触れるかどうかの問題という話なら、通りがいいですよ。確かに音楽や絵や小説というのは形而上学的なもんなんだけど、経験から言うと、精神文化とか形而上学とかいうのは、これとは別の現実よりは小さいものなんで、だから小説の世界というのは現実そのものではないということでしょう。ぼくは日本の講談は別に好きでもないけれど、「旅ゆけば駿河の国の茶の香り」みたいに、退屈なら退屈でないように、なんて物事をいっぱいにしないで、退屈のまま行く手もあるな。

 自分自身を観察すると、何かが欲しい時に思うように手に入ると、大変うれしい。それは「端緒」というようなもので、きっかけですよね。音楽の場合、聴く人はそのきっかけを求めている。たぶん間違いないところです。

 カンボジアの寺院で使う中型の鐘を見つけたので、45ドルで買った。本当は何個かほしいところだが、高い買い物になる。この鈴をホテルのスタッフさんに見せてみたのだが、あまり関心がなさそうだった。ハタチくらいの女の子で、昼間、受付をやっている。

 今日は曇りで時々雨が降るが、いまのところ大雨にはなっていない。4時20分。豪雨というのが、24日にこちらに着いてから2回あり、その様子を見たら、今日は遠出をしないほうがよさそうだ。タイミングよく、アンコール遺跡巡りのあとの筋肉痛があるんで、ゲストハウスの空調をつけておとなしく休んでいます。脚も疲れたが、あれこれでやっぱり興奮したのかな。ちょっとだらだらして、醒ましたほうがいい感じ。 


8月30日(金)

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